神戸市医師会医療関係の皆様へ

心肺蘇生を望まない方に対する新たな救急活動の運用について

 近年、高齢化等を背景に尊厳死の概念が広まり、救急現場において癌の末期や老衰などで、本人や家族が心肺蘇生を望まない事案が徐々に増加しています。神戸市消防局では、これまですべての心肺停止状態の傷病者に対して心肺蘇生を行うことを救急活動の基本方針としてきましたが、心肺蘇生を望まない方の意思を最大限尊重するため、これまでの活動方針を見直し、令和5年4月より心肺蘇生を望まない方に対する新たな救急活動の運用を開始しております。
 救急隊が出動した現場において、「傷病者本人が心肺蘇生を望まない」という意思表示が、書面、もしくは口頭で家族等から確認できた場合で、かかりつけの医師等から心肺蘇生を中止するように指示を受けたときには、救急隊はその意思を尊重した活動を行うことができるようになりました。ただし、人生の最終段階にある傷病者本人が、家族や身近な人、医師等と将来の医療及びケアについて事前に話し合い、傷病者本人が心肺蘇生を望まないという意思を医師が確認していることが前提となります。
●神戸市:心肺蘇生を望まない方に対する新たな救急活動の運用を開始します
●神戸市消防局:「本人の意思を尊重した救急活動の実現」動画説明

かかりつけ医となる先生方へ

 本来、心肺停止状態の疾病者に対して心肺蘇生を行って救命を行うのが救急活動の基本的使命です。その為、119番通報によって出動した救急隊に対して「心肺蘇生を希望しない」旨を現場で伝えられたとしても、本人の意思に反して蘇生を継続せざるを得ないケースが最近増加しております。  
 神戸市消防局と神戸市MC協議会が策定した新たなプロトコールでは、人生の最終段階の疾病者が心肺停止状態に陥り、救急隊が出動した現場において、「心肺蘇生を望まない」という本人の意思表示が書面、もしくは口頭で、家族等から確認された場合、まずはかかりつけ医へ連絡が行きます。かかりつけ医には、心肺蘇生を希望しない意思表示の有無、現在の状況がもともと想定されていたかの確認を行います。救急隊からの情報をもとに心肺蘇生の中止についてのご判断、指示をお願いします。そして心肺蘇生が中止された場合は、原則かかりつけ医の往診によるお看取りをお願いします。かかりつけ医の到着が30分以内の場合、救急隊は待機し、かかりつけ医へ直接引継ぎを行います。30分以上12時間以内の場合は、家族の了承を得て家族に引き継ぎます。12時間以内に往診不可の場合は、医療機関に搬送されます。その際、搬送先医療機関が伝えられますので、死亡診断書作成等に関わる情報の医師同士の連携をお願いいたします。かかりつけ医に連絡がとれない場合は、MC医師が現場の状況を十分に聴取して総合的に判断されます。  
 心肺蘇生を希望しない人生の最終段階の疾病者が、心肺停止状態に陥った際に119番通報をしてしまうと、本人の意思に反した心肺蘇生処置が行われることがあります。このような場合、119番通報をせず、直接かかりつけ医に連絡してもらうなど事前にご家族等への説明や、連絡先の共有をお願いいたします。なお、救急隊が到着時、明らかな外因性心停止を疑う場合や、心肺蘇生の継続を強く求める家族がいる場合には、通常の心肺蘇生等の救命処置が継続されます。  
 「心肺蘇生を希望しない」という意思表示は、本人や家族等、かかりつけ医を含む多職種の関係者らとともに、ACP(人生会議)の一環として成される必要があります。現時点で事前指示や意思決定支援に関する法律は本邦では制定されておらず、厚労省のガイドライン(2018年)の内容に沿った多職種による本人の意思を尊重する合意形成のプロセスを踏むことが医療側には求められます。ですので、本人を中心とした多職種との経時的な話し合いの内容を必ず関係者間で共有し、カルテへの記載をお願いいたします。

DNARプロトコル

救急搬送に関する本人の意思を尊重した合意書について

 前述の通り、救急搬送時における「心肺蘇生を希望しない」意思表示は現場で口頭、もしくは書面で行った上、かかりつけ医へ連絡が行きます。 人生の最終段階において、疾病者本人や家族等による明確な「心肺蘇生を希望しない」意思表示がある場合は、意向に沿った円滑な活動が行える様、 事前にかかりつけ医による文書(救急搬送に関する本人の意思を尊重した合意書:神戸市医師会、神戸市MC協議会指定様式)の作成を行い、 現場で救急隊に提示することも可能です。ただし、本合意書は疾病者や家族等の求めでいつでも撤回することができるものとし、 定期的に記載内容の再確認・更新を行ってください。 また、本合意書も本人や家族等、かかりつけ医を含む多職種の関係者らとともに、ACP(人生会議)の一環として作成される必要があります。 経時的な話し合いの内容や、本合意書の存在等を必ず関係者間で共有し、カルテへの記載ならびに本合意書の添付をお願いいたします。
 なお、本合意書の作成はかかりつけ医主導で行い、以下の内容がすべてなされているかを必ずかかりつけ医が確認してください。また、定期的に意思表示に変化がないかの確認を行ってください。
【必須項目】
・本人の疾病は、現時点で既に死期が切迫した状態である。
・ACP(Advance Care Planning,人生会議)に基づいた本人の意志、または推定意志である。
・本人の意思表示、または推定意志表示であり、その内容を、かかりつけ医を含む多職種の関係者や家族等の支援者と共有している。
・救急搬送・心肺蘇生を希望されない方が急変した場合、救急要請をする前にかかりつけ医や訪問看護師に連絡するよう家族等の支援者に説明した。
・本人以外の家族等の支援者、キーパーソンを決め、その緊急連絡先を確認した。
・緊急時における、かかりつけ医への緊急連絡先を伝えた。(診療時間外や夜間、休日を含めた連絡先)
・本人・家族等と、医療・ケアチームとの話し合いのプロセスを経時的にカルテに記載し、本文書の複写を添付した。
●神戸市医師会・神戸市MC協議会指定「救急搬送に関する本人の意思を尊重した合意書」ダウンロード

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